芦津のブナ巨木
ブナという樹木の名は多くの人に知られていると思います。しかし、どれだけの人が正確に葉の形や樹形などを思い浮かべることができるでしょうか。ブナはまさに、昔の人気テレビ番組の主題歌のように、「どこのだれかは知らないけれど、だれもがみんな知っている」のような樹木ですね。ブナは漢字で「山毛欅」、「橅」などと書きますが、「木では無い」というのは、なぜかわかりません。非常に腐りやすいからでしょうか。
ブナはブナ科ブナ属の落葉広葉樹で、日本の温帯林を代表する樹木です。なお日本のブナ属にはブナ(Fagus crenata)とイヌブナ(Fagus japonica)があります。イヌブナはブナよりもやや標高の低いところに分布しています。智頭では観察していませんが、隣接する用瀬町(鳥取市)の犬山神社社叢(標高約120~180m)で確認できます。
ブナは最大樹高30メートル、胸高直径は1.5mにもなります※1。東北森林管理局は、日本一のブナとして奥羽山脈中部の和賀山塊にある白岩岳の中腹の幹周8.6m(直径2.7m)、樹齢推定200~300年のブナ老木を紹介しています※2。
さらに「全国巨樹・巨木林の会」が日本一と認定したブナとして、青森県の十和田湖から奥入瀬渓流に向かう山中に「ニドムカムイ」とよばれる幹周約6.1m(直径1.9m)、樹高約29m、樹齢推定400年といわれるブナの巨木があります※3。
鳥取県では大山に西日本最大のブナ林があります。中でも中の原スキー場近くの宝珠山にある大ブナは幹回りが約5m(直径約1.6m)、樹齢推定300年で、大山では最大の個体のようです。
智頭の芦津天然林にもまた天然スギとともにかなり多くのブナが生育しています。芦津に行きますと、標高700mのあたりからブナが現れ始めます。なお、芦津集落入り口に鎮座する虫井神社の社叢では、標高365mあたりの低地にウラジロガシの巨木やアカガシ、アラカシ、スダジイ、タブノキなどの照葉樹林を構成する樹種とともに、直径1mにもなるブナが生育しています(写真1)。

写真1 虫井神社のブナ巨木
このような低標高地にブナの巨木が分布しているのは極めてまれのようです。渓流沿いの冷涼な温度環境のためかもしれません。
以前にも2022年のコラム「芦津のスギ天然林と智頭林業」で芦津天然林に生育する広葉樹の巨木の紹介をしました。それらはオヒョウ(直径1.74m、枯死)、ミズナラ(直径1.88m)、ホオノキ(直径1.57m)、トチノキ(直径2.17m)、およびクリ(直径1.68m)でした。しかしその時にはブナの巨木は確認できておらず、紹介するのを先送りにしておりました。
しかし、今年になってアルピニストで猟師の加藤修さんがついに芦津最大級のブナを発見しました。それを受けて2026年の9月20日、芦津天然林を所有する芦津財産区の人たちとともに、このブナの位置の確認と大きさの計測に行ってきました。ブナ巨木は、芦津渓谷の二ツ滝から小渓谷に分け入り、谷底のトチノキ巨木(直径2.2m)を目印に、上流に向かって左側斜面を5分ほどよじ登った中腹の小尾根の上、標高900mあたりに鎮座しています。計測の結果、幹の胸高周囲は4.65m(直径1.48m)でした(写真2,3)。

写真2 芦津のブナ巨木(直径1.48m)

写真3 ブナ巨木の樹冠
樹高はおそらく25mは超えているでしょう。根元は腐朽も認められず、まず健全といえる状態でした。この個体は大山最大のブナに匹敵する大きさで、鳥取県内でも有数の「最大級」のブナ巨木ということができましょう。
芦津の天然林は、芦津財産区が所有するエリアだけでも約600haもあります。ブナのほかにも、まだまだ未確認の巨木が存在する可能性があります。 さらに林野庁が管理する天然林内にも、写真4のトチノキ(直径約2m)のような巨木が存在します。

写真4 直径2.0mのトチノキ(国有林内)
またこの国有林内では、加藤さんのご案内により芦津でおそらく2番目の大きさであるスギ巨木(直径2.2m)(写真5)も確認しています。このスギには2mほどのところに大きな洞があり、冬眠に使っているらしく、クマの爪痕がたくさんありました。

写真5 芦津国有林のスギ巨木(直径2.2m)
- Wikipedia 「ブナ」(2026年10月14日閲覧)
- 東北森林管理局 「日本一のブナ」(2026年10月14日閲覧)
- とわこみゅ「十和田湖外輪山に眠る“森の神”ニドムカムイ|熊注意の秘境に立つ世界最大級ブナ巨木」(2026年10月14日閲覧)

