森と林と木と山の話(2)
森林と川と海
山の森林にはたくさんの植物や動物が生きています。また海にはまったくちがった植物があり、カニやサザエが動きまわり、多くの魚やクジラが泳いでいます。このように山と海とは別の世界のようです。しかし山と海とは、川の水の流れで、しっかりとつながっているのです。
海の中には魚や貝ばかりではなく、植物の海そうもたくさん生えています。またプランクトンとよばれるたくさんの小さな生き物も、ふわふわと浮かんでいます。プランクトンには、植物のプランクトンと、それを食べて生きている動物のプランクトンがいます。魚の卵や小さな魚の赤ちゃんなども動物のプランクトンですね。
生物が生きて成長し、子孫を残していくためには、たんぱく質や糖分などのいろいろな栄養素が必要です。植物にはこの糖分、つまり砂糖やデンプンなどの栄養素を、空気中の二酸化炭素(炭酸ガス)と光のエネルギーを利用して自分で作り出す能力があります。これが光合成です。一方、動物は植物を食べることで、植物から糖分などの栄養素をもらって生きています。
植物が光合成をおこなうには、光だけではなく根が土から吸い上げるチッ素やミネラルなどの養分も必要ですね。例えば畑で野菜を作るにも、土の中に養分がなければ育ちません。畑に肥料をまくのは、土の養分を増やすためです。この養分は山の木も草も、そして海の海そうの生長にも、なくてはならないものなのです。
では、海そうや植物のプランクトンが育つのに必要な養分はどこからくるのでしょうか。その養分は森林で作られ、やがて川を流れ、はるばると海に運ばれてくるのです。
生物は、大きな木でも、クマのような強い動物でも、最後には枯れたり死んだりします。枯れ木や死んだ動物は、やがて土の中にいるミミズや、ミミズよりももっともっと小さな生物である微生物によってバラバラに分解されてしまいます。そして一部は炭酸ガスや水となって空中にもどりますが、多くは土に混ざって森林の地面にたまります。この中で、植物の生長に必要な養分がどんどん作られますので、木はこの養分をまた吸収して、さらに大きくなっていくのです。
森の土の中にたまった養分の一部は水にとけて川を流れ、やがて海に入ります。海に運ばれる養分にはいろいろありますが、鉄やカルシウムなどのミネラルとよばれている栄養素も、生物が生きるためには、なくてはならないものです。この鉄を海まで運んでくれるのが、植物などが分解されてたまった土の中で、少しずつ作られる「フルボ酸」です。
フルボ酸は鉄の運び屋さんです、といいましても、鉄の棒や鉄の板のような金属のかたまりを運ぶのではありませんよ。鉄は少しずつ水に溶けていきますので、この溶けた鉄分を運ぶのです。ところで、私たちの体には赤い血が流れていますね。この血が赤いのは、血の中の赤血球という細胞にこの鉄分がたくさん含まれているからなのです。
フルボ酸はこの鉄分とくっついて「フルボ酸鉄」となり、森林から海まで、はるばると流れていきます。そして海そうや植物のプランクトンは、この鉄分を吸収して元気よく生長します。そして魚や貝などの動物や動物のプランクトンがそれらを食べます。そうすることで、海の中には、海そうや魚や貝などのいろいろな生物がゆっくり、ゆっくりと増えていくのです。
海の中に鉄の船が事故などで沈んだりしますね。長い時間がたち、ボロボロになった船のまわりに海そうや魚がだんだん増えてきます。それは、そこには鉄がたくさんあるからなのです。
「森は海のこいびと」という言葉を聞いたことがありますか。これは宮城県で貝のカキを育てている畠山重篤さんという人の言葉です。はたけやまさんは、カキを育てるために山に木をたくさん植えました。山に豊かな森があると、海に養分がたくさん流れてきて海が豊かになり、カキがどんどん大きくなるのです。
このように山と海とは、川を通じてしっかりとつながっています。たくさんの木が育っている山の豊かな森林は、海の植物や動物が生きて行くためにも、なくてはならないのです。