世界の林業(2)〜中国のクブチ砂漠より〜
中国の乾燥地緑化と小葉楊
九月初旬の今、中華人民共和国の内蒙古自治区ダラドチ(達拉特旗)のクブチ(庫布其)沙漠にいます。
私の元来の専門は森林を作る「造林学」なので、智頭の山に限らず、乾燥地の緑化に関わる研究にも首を突っ込んでいます。
クブチ沙漠での緑化造林の主役は小葉楊(和名:テリハドロノキ)とよばれるポプラの一種です。沙漠の緑化もまた、植栽した樹木が次の世代を次々と生み出し、緑地がどんどん広がっていくのが理想です。
また鳥取砂丘の何百、何千倍もの面積をもつ大陸の沙漠では、常に風で砂が移動し、たくさんの砂丘を形成しています。この砂移動を樹木植栽などによる緑化で抑え込み、農地や牧地を守ったり広げたりすることも大きな目標です。
クブチ沙漠は地下水が豊富にあります。しかし植栽された樹木は、時には砂の移動によって埋まったり、根の周りの砂が吹き払われたりして、生き残ることが難しくなることがたびたびです。
緑化に適した樹木とは
それではなぜ小葉楊が緑化樹の代表種として選ばれてきたのでしょうか。
小葉楊は若木が砂に完全に埋没すると、急に成長の速度を上げます。
同時に、埋まった枝も上向きに成長しはじめ、やがてホウキをさかさまに立てたような、多数の幹の集団からなる樹形に発達します。つまりこの樹種は、砂に埋まってしまうような環境の方が、生育に有利なのです。
一方、根の回りの砂が吹き払われたらどうでしょうか。
この樹種は根が地下深く入ることはなく、やや浅い湿った砂の中に四方八方に根を広げます。地表面の砂が吹き払われ、水平に広がった根がむき出しになると、数多くの新芽が根のあちこちから伸びはじめます。
それぞれの新芽は、やがて独立した個体として成長していきます。この現象は根萌芽(こんぼうが)とよばれています。つまり根がむき出しになるということは、多数の新個体が生まれるきっかけになっているのです。
このようにして小葉楊というポプラは、移動砂丘の中で完全に砂に埋もれても、また根のまわりの砂が吹き払われても、しぶとく生き続ける能力を持っているのです。
国による緑化事情の違い
現在、内蒙古自治区の乾燥地では、国を挙げて緑化が進められています。植栽した樹木がどのように生きのびて行くか、これからの管理がとても大切になってきます。
この地域は年間300~500㎜程度しか雨が降りません。樹木は大きくなるほど水を多量に消費するので、多くの樹木が植栽された場所では、水管理に関わる苦しい戦いが始まったばかりです。フフホト(呼和浩特)市の公園では黄河から長いパイプを引いて水を供給しています。2,000mm近くも雨が降り、ほっておいても木が伸びてくる日本とは、緑化事情は大きく異なっているのです。