地球環境と林業

異常気象

2018年の日本列島は次々に自然災害が起こっています。

前々回のコラムにも書きましたが、「平成30年7月豪雨」では、智頭町でも雨が降り続き、山林内の各所で土砂崩れが頻発しました。智頭町では、幸いにして人的な損害はなかったのですが、岡山県や広島県などの西日本の各地では死者数が200名を超える大災害となりました。

さらにその後、日本各地で最高気温が40℃を超え、7月の熱中症による死者は全国で124人を数えました。このような熱波は、日本ばかりでなく北半球の広域におよび、北極圏のラップランド(フィンランド)でも33.4℃を記録しました。毎日ウチワばかり使っていた我が家も、ついに扇風機を2台も買ってしまったほどです。

また、いくつもの台風が来襲してきました。9月4日に関西に上陸した「平成30年第21号台風」は、13名もの人命を奪うとともに、関西国際空港の機能をマヒさせてしまいました。

その直後、9月6日の未明に「北海道胆振東部地震」と命名された激震が北海道を襲い、41名もの死者を出すこととなりました。

地震と地球温暖化は直接には関係がないのですが、次から次へと続くので、何か関連があるのではないか、と思ってしまうほどです。

地球温暖化

熱波や台風来襲の増加は地球温暖化との関係で語られています。

確かに、地球上の炭酸ガス(二酸化炭素)濃度は急増しています。むかし、私が福岡市で学生生活をしていたとき、研究室で市内の二酸化炭素濃度を計測したところ、330ppmほどでした。しかし、40年以上が過ぎた現在、鳥取市でもおそらく400ppmに近づいているのではないでしょうか。

二酸化炭素やメタンガスは温室効果ガスと呼ばれ、地球温暖化の原因として考えられています。しかし、なかなか因果関係をすっきりと説明するに至っていないのが現状でしょう。

世界の二酸化炭素の放出のチャンピオンは中国で、世界の28.4%を出しています。二番目に多いのはアメリカで15.4%、インド6.4%、ロシア4.8%で、日本は3.5%です。中国とアメリカとで、世界の半分に近い43.8%の二酸化炭素を出しているというわけです。

ところが最近、トランプ大統領は、オバマ政権が作り上げた地球温暖化対策を、まるでちゃぶ台返しのように全面的に見直しする大統領令に署名してしまいました。地球温暖化の情報はウソ(フェイク)だ、というのです。世界にとっては厄介なことですね。

森林と二酸化炭素

しかし、森林の二酸化炭素吸収は、ほんとうに地球を救えるのでしょうか。ここで地球の二酸化炭素と森林についてちょっとした計算をしてみましょう。

林野庁のホームページによりますと、きちんと手入れした1ヘクタールの40年生スギ人工林は、40年間で約290トンの二酸化炭素をたくわえています。またこのスギ林が現在、1年間に吸収する能力は約8.8トンで、ヒノキ林やアカマツ林よりもずっと多いようです。

また1世帯から1年間に排出される二酸化炭素の量は、2012年で、5270キログラムでした。この排出量を、40年生のスギが1年間で吸収する量に換算すると、599本分の吸収量と同じぐらいだそうです。1ヘクタール1000本とすると、1ヘクタールで約1.7世帯の吐き出す二酸化炭素を吸収してくれることになります。

智頭町は約2730世帯ですから、約1万4387トンの二酸化炭素を排出しています。智頭の人工林面積は約1万6328ヘクタールで、全部スギ林としたら2万7758世帯分です。これから智頭町民の世帯数を引きますと、まだ約2万5028世帯分のゆとりがあるということです。1世帯4人として、約10万人が智頭に引っ越してきても、二酸化炭素排出量とスギ林の吸収量はトントンであるということですね。

以上の計算は、林野庁が森林の二酸化炭素吸収源としての能力を説明する手法であり、「森林をきちんと整備したら、地球の二酸化炭素を吸収してくれますよ」と一般に訴えている理屈なのです。

しかし、なにかおかしいですね。森林の植物はいつか朽ち果て、体内の二酸化炭素は一部が土壌の炭素として残っても、多くは大気に帰っていきます。安定した森林では、吸収と排出とがだいたい釣り合っていると考えたほうがいいのです。

森林の貢献

現在の地球の二酸化炭素の濃度は、ハワイのマウナロア観測所の今年の測定で410ppmを超えました。

太古の二酸化炭素濃度はベラボウに高かったのですが、地球の生物は何億年もの時間をかけて、じわじわと二酸化炭素を低下させ、100年ほど前には280ppmにまでになりました。大気の二酸化炭素は多くが石灰岩になり、また石油や石炭に形を変えて地下深く埋め込まれてきたのです。

石油や石炭はどんどん掘り出され、燃やされて、たかだか100年ほどの間に大気に多量に放出されました。その結果、二酸化炭素濃度が急上昇し、400ppmを超えるほどにもなった、といわれています。

これを吸収して、濃度を低下させようとしても、森林だけではどうしようもありません。豊かな森林を作っても、100年で元の濃度に戻せるような能力はありません。つまり、二酸化炭素濃度の増加を抑制できるかどうかの問題は、排出をどのように抑え込むか、の問題であって、森林や海洋の吸収能で何とかなるような問題ではないのです。

なお、水は温度が下がると多量の二酸化炭素を溶かし込み、温度が上がると放出する、という性質を持っています。このことから、海洋の水温が上昇した結果、溶けていた二酸化炭素が多量に空中に放出されたのだ、との重要な指摘があります。つまり地球が温暖化したために、海洋からどんどん空中に二酸化炭素が飛び出してきて濃度が上昇した、ということです。温暖化が先で、二酸化炭素上昇はその結果である、というわけです。

なあんだ、どちらにしても森林は役に立っていないのか、と落ち込まないでください。話はこれからです。

二酸化炭素の排出をどう抑制するかは、ひとえに世界がどのような環境政策を考えるか、にかかっています。ちゃぶ台返しなどをしているヒマはありません。地球というマクロスケールでの二酸化炭素の問題解決には、世界や国家を運営する政治家や官僚たちの責任がきわめて重いのです。

林業の役割

その一方で、もっとミクロスケールでの私たちができそうな地球への貢献を考えてみましょう。

たしかに、二酸化炭素濃度の上昇を止めることは、個人の力ではできません。しかし、たとえ「トウロウ(蟷螂)の斧」であったとしても、ブレーキは掛けよう、という意識を持つことが大切なのではないでしょうか。

二酸化炭素濃度の低下に対する森林の貢献は微々たるものだ、といいました。それでも、例えばスギ人工林が二酸化炭素の吸収を効率よく行えるように管理することは、だれでも容易にできることです。苗木を植え、除伐・間伐を行い、伐採し、木材として利用する、というような林業は、まさに地球に貢献できる産業です。

木を伐って何が貢献だ、といわれるかもしれません。当然、収穫した木材を燃やしたり腐らせたりしてしまったら、あっという間に二酸化炭素は大気に帰ります。

しかし、木材を建築などの耐久消費財にして、二酸化炭素が固まった形のままで100年以上も使えば、人の手で長らく二酸化炭素を封じ込めることができるのです。

地球のための「木づかい」ですね。

ミクロの貢献

このような貢献なら簡単です。森林から遠い大都会に住んでいても、山村の林業活動を直接・間接に支援し、自身は木材を充分に使った100年以上も使える家に、家の重しのようにして住むならば、あなたは立派に地球環境の改善に貢献している、という意識を持つことができるでしょう。

それとも、化石燃料を山ほど使う鉄筋コンクリートの家に住んで、冷房をガンガン使って、ビール片手にテレビの熱中症のニュースを見ながら、地球の異常な熱波について、「トランプさん、困りますよ!」と呪いますか?

大都市の人に申し上げます。

林業地の智頭は、いつでもあなた方の地球に対するミクロの貢献のお手伝いをいたします。

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山本福壽

智頭の山人塾 塾長。鳥取大学乾燥地研究センター・特任教授。農学博士。2016 年より鳥取県智頭町に移住し、塾長に就任。

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