芦津のクマ剥ぎ

近年、クマ(ヒグマ、ニホンツキノワグマ)の出没が大きな話題となっています。最近では、2024年11月30日、秋田市のスーパーマーケットにツキノワグマ1頭が侵入、従業員の男性を襲ったあと、店内に籠城。3日後の12月2日朝に箱わなで捕獲され、駆除されました。

鳥取県東部もまた、比較的クマ密度が高い地域です。鳥取県におけるツキノワグマの行動については、2018年10月、「クマとドングリ」と題するコラムを書いていますので、ご覧ください。私は2003年から5年間ほど、鳥取県の林業試験場とともにクマの行動調査を行った経験があります。その当時、発信機を装着したクマの行動とドングリの豊凶との関係を調べていました。

さて、「クマ剥ぎ」という現象をご存知でしょうか。

ツキノワグマは初夏になると次第に餌資源が少なくなるので、スギの幹にまで手を出します。クマはスギの樹皮を腕力で剥いで、みずみずしい木部の表面をかじります。この現象は京都府北部の芦生地方をはじめとして全国で認められ、林業関係のテキストにも掲載されています。例えば栃木県日光市のデータでは、直径20~30cmの比較的若いスギの被害が多いようです。先のコラムでも触れておりますが、2018年にそれを書いた時点では、クマ剥ぎを直接観察したことはありませんでした。

樹幹の剥皮と言えば、全国的に増加しているシカによるスギ、ヒノキなどの食害が深刻です(以下写真2点)。

樹幹の剥皮と言えば、全国的に増加しているシカによるスギ、ヒノキなどの食害が深刻です

樹幹の剥皮と言えば、全国的に増加しているシカによるスギ、ヒノキなどの食害が深刻です

鳥取でも、もっぱらシカの問題として剥皮害が取りざたされてきています。ところが2024年6月、鳥取大学名誉教授の山中典和さんから智頭町芦津でクマ剥ぎらしき剥皮痕を観察した、とのご連絡をいただきました。そこで、芦津のセラピーロードに急行したところ、芦津財産区有のスギ林内で、まさしくクマ剥ぎらしき食痕を観察することができました。

次の写真は、スギの樹皮がクマの爪と腕力によって剥ぎ取られた様子です。

智頭町芦津のスギの樹皮がクマの爪と腕力によって剥ぎ取られた様子

また次の写真では、樹皮を剥ぎ取られた木部表現に、3~4列の縦長の歯形が観察できます。

智頭町芦津のスギの樹皮がクマの爪と腕力によって剥ぎ取られた様子

これはみずみずしい木部の表面を歯でこそぎ取るようにして食べた結果、生じたものでしょう。5~6月ごろの樹幹は形成層の細胞分裂が盛んで、樹皮の内側は木化していない柔らかくジューシーな組織がたっぷりです。

クマは樹皮そのものを食べようとはしませんが、シカは樹皮を採餌します。このため、シカによる剥皮痕には、クマの食痕のように歯による材の表面をこそいだ傷は少ないようです。シカはまず、樹幹の根元をかじることから始まり、上方に強く引っ張って剥皮します。そのため、クマ剥ぎとは形状が明らかに異なっています。

これまで鳥取県ではクマ剥ぎの問題が論じられたことはありませんでした。しかし、芦津のクマ剥ぎが母グマによって起こされたとすれば、この行動は、文化として仔グマに伝えられるような気がします。ということは、今後、智頭でもクマ剥ぎの頻度が増加するかも知れませんね。

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